抹茶ブームで高級品が品薄に 日本の供給不足と価格高騰から読む茶産業の転換点
ニュースの概要
日本の抹茶は、海外での飲用に加えて菓子や飲料の原料としても需要が広がり、生産を増やしても供給が追いつかない状況にある。とりわけ、手摘みや栽培管理に手間をかけた儀式用の高品質品は不足し、価格上昇が続く。2025年の日本の緑茶輸出額は約721億円と過去最高を記録し、前年の約2倍、10年前の約3倍に拡大した。輸出先では米国が全体の35%を占める。京都・宇治の2026年産てん茶市場でも、機械摘み品の平均価格は1キログラム当たり1万7250円に達した。
引用元: 世界的な抹茶需要拡大で日本の供給不足と価格高騰が継続(News18)
分析・見解
輸出の急伸が示すのは一過性でない需要の広がり
2025年の緑茶輸出額は約721億円となり、前年のおよそ2倍、10年前の約3倍に達した。米国向けが輸出の35%を占めるという数字は、抹茶が一部の愛好家向け商品から、海外の飲食産業で継続的に使われる素材へ移りつつあることを示す。茶専門店の一杯だけでなく、菓子、乳飲料、家庭用粉末など複数の用途が同時に原料を求めるため、需要の波が産地に伝わりやすい。
ただし、輸出額の増加を生産量の増加と同一視してはならない。価格上昇や高付加価値品の比率変化も金額を押し上げる。数量、等級、用途別の内訳を見なければ、供給不足の深さや各事業者の実需は判断しにくい。
てん茶の供給は畑の面積だけでは短期に増やせない
抹茶の原料となるてん茶は、収穫前に茶園を覆って日光を抑え、摘んだ葉を蒸して乾燥させた後、茎などを取り除いて仕上げる。覆いの期間や摘採時期、加工の丁寧さが香りや色に関わる。茶園を増やしても、苗の育成、設備、人手、加工枠がそろわなければ、すぐに同じ品質の原料を市場へ出せない。高品質品ほど生産条件が細かく、供給の伸びには時間がかかる。
宇治の機械摘みてん茶が1キログラム当たり平均1万7250円という水準になったことは、機械化だけでは価格を抑えきれない現実を映す。機械は摘採の効率を上げても、覆いを行う作業や選別、乾燥、仕上げの能力まで自動で増やすわけではない。特定工程が詰まれば、茶園の増産分も製品化できない。
高級品不足は商品設計と品質表示の見直しを促す
「抹茶」として販売される商品には、茶道で用いる高品質品から、加工食品向けまで幅がある。すべての用途に同じ等級を使う必要はない。色や香りが主役となる菓子と、湯で点てて飲む商品では求める品質が異なるため、用途に応じて原料を分けることが合理的だ。高級品の供給が限られる局面では、製品名だけでなく産地、原料、用途を明確に伝えることが、価格への納得感を支える。
一方、別の茶種や海外産粉末を国産抹茶と誤認させるような代替は、短期の販売を助けても信頼を損なう。原材料表示と品質基準を丁寧に整え、供給量に合う商品構成にすることが重要になる。
生産拡大は茶園と地域の持続性を条件に進める
価格高騰は、生産者に設備更新や茶園再生の資金をもたらす可能性がある。しかし、需要の強さを前提に急拡大すれば、価格が落ち着いた際に過剰設備や担い手不足が残る。茶園の転換には年単位の時間がかかり、気候や病害による収量変動も避けられない。目先の高値だけで生産能力を決めず、契約量、複数年の販売見込み、地域の加工能力を合わせて判断する必要がある。
供給不足の核心は、茶葉の総量だけでなく、求められる品質を適切な時期に加工し、用途ごとに届ける能力にある。生産者、加工業者、買い手が需要予測や品質条件を共有できれば、増産の投資をより確かなものにできる。
ビジネスへの影響
調達は単価交渉から供給枠の確保へ移す
抹茶を使う食品・飲料企業は、前年の購入量だけを基準に発注すると、需要増と収穫変動が重なったときに欠品しやすい。まず商品ごとに必要な品質と用途を整理し、茶道向け相当品が本当に必要な商品と、加工用原料で十分な商品を分ける。仕様を用途に合わせれば、高級品を必要な商品へ確保しながら、原料費を抑える余地が生まれる。
次に、単一業者への依存を減らし、産地や加工業者を複数確保する。ただし、産地名だけで代替可能と判断せず、色、香り、粒度、溶けやすさを試作品で確認する。収穫前の予約や複数年契約は供給を安定させる手段になるが、数量、品質の許容幅、未達時の扱いを契約に明記したい。
値上がり分は容量と表示で納得できる形にする
原料価格の上昇をそのまま小売価格へ転嫁すると、消費者が離れる可能性がある。価格改定だけでなく、内容量、使用量、商品構成を見直す選択肢がある。たとえば、抹茶の香りを主役にする商品は配合を維持し、他の風味が中心の商品では必要な品質の原料を再選定する。安価な原料への切り替えを一律に行うより、用途別に設計し直す方が品質の一貫性を保ちやすい。
表示では、国産かどうか、どの産地の茶を使うのか、抹茶がどの程度商品価値を担うのかを正確に伝える。品薄を理由に説明の曖昧な代替品を販売すれば、短期の粗利益と引き換えにブランドへの信頼を失う。価格改定の背景を、供給条件や品質維持の努力とともに説明することが再購入につながる。
投資判断には増産後の出口と人手を含める
生産者や加工業者が設備投資を検討する場合、現在の高値だけで採算を組むのは危険だ。茶園の育成にかかる時間、覆いの資材、摘採人員、乾燥・選別設備の処理能力、電力や保守費まで含め、複数の収量・価格シナリオで採算を確かめる。増産しても加工待ちが発生すれば、品質や納期に影響するため、工程全体の能力を先に点検したい。
買い手との長期契約や、用途別商品の共同開発は投資回収の見通しを立てる助けになる。一方、需要変化に備えて販売先を一社や一国に集中させないことも大切だ。輸出、国内小売、業務用の比率を把握し、どの需要が継続的かを見極めてから、生産拡大と設備投資の段階を決めるべきである。