日本茶GI登録で輸出2倍超、抹茶ブランドは守れるか
ニュースの概要
日本茶は2026年7月、全国を産地とする初の地理的表示(GI)登録産品になりました。産地団体や茶商、飲料メーカーが集う日本茶GI推進委員会は、制度の周知と利用拡大を進めています。10月16日時点で利用申請は72件、対象商品は発売予定分を含めて約500品に上ります。背景にあるのは輸出の急拡大です。2025年の輸出額は前年のほぼ2倍の721億円、2026年1~8月も前年同期の約1.8倍の674億円に達しました。需要が膨らむ抹茶を中心に、名前だけを借りた類似品から価値を守る狙いがあります。
引用元: 日本茶GI推進で輸出拡大と抹茶ブランド保護を目指す(食品産業新聞社ニュースWEB)
分析・見解
全国一括登録は、産地名ではなく品質を看板にする試み
これまでの地理的表示は、夕張メロンや市田柿のように、特定の土地と結びつく産品が中心でした。日本茶は静岡、鹿児島、京都、三重などで気候も製法も違い、一つの産地名では括れません。そこで国全体を産地とし、国内で生産され基準を満たした茶を日本茶と呼ぶ形を取りました。
産地名で売る従来のGIとは発想が違います。「日本産であること」そのものを保証の印にする、いわば国の名前を看板にした制度です。
輸出倍増の裏で、抹茶という言葉だけが独り歩きしている
輸出額が1年で約2倍になった最大の要因は抹茶です。海外ではカフェ向けの需要が急増し、品薄や価格の上昇が起きました。ここで問題になるのが「Matcha」という言葉の扱いです。粉末にした緑茶なら何でも抹茶と名乗れる国もあり、日本の碾茶(=抹茶の原料になる、日光を遮って育てた茶葉)とは品質も味も大きく異なります。
需要が急に増えた市場では、似た商品が安く出回りがちです。かつて和牛が海外で「Wagyu」の名で別の産地の肉に使われた経緯と、構図はよく似ています。
GIは万能ではなく、使われて初めて意味を持つ
登録されただけでは、消費者の目には何も変わりません。GIマークが付いた商品が店頭に並び、飲む人がその意味を理解して初めて、価格への反映が起きます。約500品という数字は出足として悪くありませんが、国内で流通する茶製品の総数から見れば、まだ一部です。
また、保護が及ぶのは登録国や協定のある地域です。主要な輸出先で相互保護が進むかどうかが、実効性を左右します。
見落とされがちな視点は、原料の碾茶が足りるかどうか
輸出が伸びる一方で、碾茶の生産量には限りがあります。茶園を碾茶向けに転換するには、覆いを掛ける設備や数年の育成期間が必要です。需要だけが先に膨らむと、基準を満たす原料が足りなくなり、基準を緩めたい誘惑が生まれます。GIの価値は基準の厳しさにあるので、ここで緩めれば信頼そのものが傷つきます。供給力の裏づけがあってこそ、ブランド保護は成り立つといえます。
ビジネスへの影響
飲料・食品メーカーは表示と調達の見直しが先
日本茶を使った商品を持つ企業は、GIの利用申請を検討する段階に入りました。申請すれば、パッケージで産地の裏づけを示せます。一方で、基準に合う原料を確保できなければ表示はできません。まず自社の主力商品の原料が、どの産地のどの茶葉かを棚卸ししておくことが現実的な一歩です。
輸出事業者は偽物対策と価格交渉に使える
海外のバイヤーとの交渉では、GIは品質の客観的な証明になります。安価な類似品との差を説明しやすくなり、値下げ圧力への反論材料になります。ただし、輸出先ごとに保護の範囲が違います。進出予定国で日本茶のGIがどこまで通用するかを、事前に専門家に確認しておくべきです。
小さな茶農家や産地は、加工先との連携が鍵
個々の農家が単独で申請や海外展開をするのは負担が重くなります。産地団体や茶商と組み、基準の確認や販路づくりを共同で進める方が効率的です。碾茶への転換を考える場合も、需要が落ち着いた後の価格を見据え、数年先の収支を試算してから判断してください。