八女茶に響いたNYバイヤーの一言と輸出拡大の分岐点
ニュースの概要
福岡県の八女茶の産地に、ニューヨークのバイヤーらが訪れ、茶園や製茶の現場を視察した。試飲した参加者は味を「パーフェクトなお茶」と評価したという。背景には、世界的な抹茶ブームがある。需要は急に伸びているが、原料の碾茶(てんちゃ=抹茶のもとになる茶葉)は生産に時間がかかり、すぐには増やせない。産地側は、この追い風を一時的な流行で終わらせず、継続的な輸出の拡大につなげたい考えだ。今回の視察は、品質を現地で確かめてもらい、取引の入り口を作る試みと位置づけられる。
引用元: 試飲して「パーフェクトなお茶」 NYのバイヤーなどが八女茶を現地視察 世界的な抹茶ブームの中で輸出拡大を 福岡(Yahoo!ニュース)
分析・見解
試飲の称賛は、取引の入り口にすぎない
「パーフェクト」という評価は、産地にとって大きな励みになる。ただし、それだけで輸出が増えるわけではない。バイヤーが見ているのは味だけでなく、同じ品質を毎年、決まった量で、決まった価格で届けられるかどうかである。
試飲は最初の信頼を作る場だ。その後に待っているのは、数量の約束、納期、価格改定のルール、品質のばらつきへの対応といった地味な交渉である。ここで詰めきれなければ、称賛は成約に変わらない。
抹茶の需要は急増し、碾茶の供給が追いつかない
抹茶は、粉にする前の原料である碾茶を作るところから始まる。碾茶は、収穫前の約20日間、茶園に覆いをかけて日光を遮って育てる。手間がかかる上に、茶樹は植えてから安定して収穫できるまでに数年を要する。
需要が1年で何割も伸びても、供給を同じ速さで増やすことはできない。日本国内では、ここ数年、抹茶の品薄や購入制限が話題になった。海外の人気が高まるほど、産地は限られた原料を国内向けと輸出向けにどう分けるかという難しい判断を迫られる。
福岡は、京都や静岡、鹿児島に比べると、碾茶の存在感でやや控えめだった。八女は玉露の産地として知られ、覆いをかけて育てる技術の蓄積が深い。この技術は碾茶づくりと相性がよい。ここに八女の勝ち筋がある。
海外バイヤーが求めるのは、味と物語と証明書
ニューヨークのような市場では、味が良いだけでは足りない。どの茶園で、誰が、どう育てたかという物語が、売り場での価値を左右する。さらに、農薬の残留基準への適合や、有機認証、輸送中の品質保持も重要になる。
米国向けでは、残留農薬の基準が日本と異なる点が壁になりやすい。日本の基準で問題のない農薬が、米国では使えない場合がある。輸出を狙う茶園は、防除の計画を最初から輸出先の基準に合わせて組む必要がある。
似た例として、和牛は産地の物語と履歴の追跡で価格を上げてきた。八女茶も、地名そのものをブランドとして育てられるかが分かれ目になる。
熱が冷める前に、産地全体で足並みをそろえられるか
流行は永遠には続かない。ブームのピーク時に慌てて増産して、数年後に需要が落ち着くと、設備と茶園が余るおそれがある。逆に慎重すぎれば、棚の場所を他産地や他国産の抹茶に奪われる。
中国産などの安価な抹茶が、抹茶の名前で広く流通しはじめている。価格で戦えば消耗する。八女は、少量でも高単価で売れる位置を狙い、品質の説明を徹底するほうが合理的である。独自の視点を加えるなら、売るべきは抹茶そのものより、安心して選べる基準だと言える。
ビジネスへの影響
茶農家と製茶業者が今すぐ見直すべき三つの点
第一に、輸出先の残留農薬基準を確認し、防除計画を見直すことである。次の収穫期に間に合わせるには、早めの準備が欠かせない。第二に、価格と数量の約束を、年間契約の形で整理しておくことだ。バイヤーが最も嫌うのは、品質や供給が読めないことである。第三に、茶園ごとの履歴や味の特徴を、写真と短い文章で説明できる状態にしておく。商談の場で、これが信頼を生む。
飲料・食品メーカーが原料調達で考えておくこと
抹茶を使う商品を扱う企業は、原料の確保が経営課題になりつつある。単一の産地に頼らず、複数の産地から調達する体制を持つと、不作や品薄の影響を和らげられる。
八女のように、新たに輸出へ踏み出す産地は、取引の初期に条件を有利に交渉しやすい。品質基準を共同で作り、数年単位の購入を約束する代わりに、安定した供給を受ける形が現実的だ。
商社や小売店は、産地の物語を売り場でどう伝えるかも考えたい。味の説明に加え、産地の技術や育て方を一枚の資料にまとめるだけで、購買の理由は大きく変わる。